2003年11月10日 このページの後半に比 較試聴の記事(←ここ)を追加しました。

名機ATH-AD7の後継機ATH-AD700
初掲載2003年10月25日
最終更新11月10日

オーディオテクニカは今まで以下のような経緯で開放型(オープンエア型)ヘッドホンを発売してきました。

1999年2月 ATH-AD9, ATH-AD10
2001年11月 ATH-AD5, ATH-AD7

この中で名機と言われたのがATH-AD7です。
ATH-AD7の実売価格は9800円〜13000円程度でした。
当時、この価格帯の開放型でAD7ほど音の良いものは他社になく、名機と言われるのも当然でした。
オーディオ銘機賞2001も受賞しています。
最近では、K271studioやMDR-CD900STのようなモニターヘッドホンが安く入手できるようになり、音質的には特筆するものでもなくなりま した。
しかしながら、これらのモニターヘッドホンは装着感や音質傾向から鑑賞用途にはいまいちです。
鑑賞用ヘッドホンとしては今でも他社の製品にAD7に匹敵するものはないでしょう。

最近になってオーディオテクニカはATH-AD5とATH-AD7のラインナップを置き換える新製品を発売しました。

2003年10月 ATH-AD300, ATH-AD400, ATH-AD500, ATH-AD700

この中でATH-AD700はATH-AD7の後継機となります。
まだ発売されたばかりなので実売価格は13000円〜15000円とやや高価ですが、2ちゃんねるでも「名機の後継」として注目されています。

ATH-AD700とATH-AD7の比較写真


T-SOUNDで購入 しました。
秋葉原の実売価格が15000円程度ですが、T-SOUND だと9800円で買えます(値上げされてます)。


ビニールパックのATH-AD7と違って、扱い易い四角い箱です。


箱の裏側です。


店頭展示用にこんなことができます。


本体はこうやって箱の上から出します。


ATH-AD700はこうやって収まっています。


左がATH-AD7、右がATH-AD700です。


左がATH-AD7、右がATH-AD700です。
後継機と言っても外観はかなり変わっています。


左がATH-AD7、右がATH-AD700です。
AD700はドライバーに黒くて薄いスポンジのようなものが入っていて内部が見えません。


左がATH-AD7、右がATH-AD700です。
パッドはAD700の方が広く深くなっていて、装着感は少しだけ向上しているように感じます。
その反面、私の一年以上使っているAD7より側圧が強くなっていますが、長時間の使用で同様に変化する可能性もあります。


左がATH-AD7、右がATH-AD700です。
ウィングサポート形状は大幅に変わりましたが、この変更によって装着感が上がっている訳ではないようです。


左がATH-AD7、右がATH-AD700です。
コードもプラグも同じようですね。


ATH- AD700を他機種と比較試聴する(2003年11月10日)

みなさんお待たせしました。ようやく比較試聴ができました。
今回、比較試聴に使用した機種は、以下の3つです。
HD580は基準用として使いましたが、比較には入れませんでした。
ATH-AD700とATH-AD10はそれぞれ約30時間程度のエージングを行っています。
ATH-AD7は一年以上前に購入した物であり、エージングの必要はないと判断しています。



上左からATH-AD700,ATH-AD10,ATH-AD7です。
右下のヘッドホンは基準用のHD580です。
CDプレーヤー(SA-17S1)の上にあるHA4700はエージング用に使っただけで、音質評価には使っていません。
評価はSA-17S1のヘッドホン端子で行います。
試聴の方法は、以下のようにしました。

  1. 試聴する音楽を決める
  2. その音楽をHD580で聴いて基準とする。
  3. ATH-AD10,ATH-AD7,ATH-A700の順に聴く。
  4. 写真下のノートPCでレポートを書く
試聴に使用する曲はK271studioの比較試聴と同じ曲にRockと男性POPSを追加して行いました。
試聴する曲数は8曲、合計時間が50分57秒でした(もちろん4台分聴くので全て聴くのに約4時間となります)

(注)音の感じ方は人によって異なります。このレビューは参考程度とし、最終的には自分の耳で聴くことをお勧めします。

Beethoven Symphony No.9 <Choral>
TRACK1(16分)
指揮:小澤征爾
発売元:ビクターエンターテインメント株式会社
ジャンル:大規模クラッシック

ATH-AD10
中高音〜高音の解像度は高いものの音像がボケ気味でその定位も掴みにくい。
その結果、各楽器の分離が良くない。
音場は大半の楽器が前方にボンヤリと定位して鳴っているように聴こえる。
一部の楽器は左右から聴こえるが、これらの楽器は比較的音像がクッキリとしており、
全体として一体感の無い奇妙な音場を形成する。
音場はそこそこ広いものの立体感に欠けるのでホールで聴いているような気がしない。
音は高域よりの明るい音である。
音の開放感は非常に良い。

ATH-AD7
AD10の下位機種に位置付けられる機種ではあるが、音場と楽器の定位感はAD10よりも改善しているように感じた。
(それでも音像と定位がボンヤリとした傾向はある)
AD10の発売から1年9ヶ月後に登場したおかげか一概に全てが見劣りするとは言えないのであろう。
音場も左右と前方の繋がりはAD10よりも良い。
ただし、AD7の高音の伸びと解像度はAD10に対して明らかに見劣りする。

ATH-AD700
音の解像度はAD7よりも高い。
音像もAD7より鮮明で定位もAD7より改善していると思われる。
そのためか音の立体感はAD10とAD7よりも良い。
その反面、AD7より音場は狭いような気がした。

Simba
TRACK1「ニューシネマパラダイス」(5分1秒)
演奏:高島ちさ子
発売元:日本コロムビア株式会社
ジャンル:小規模クラッシック

ATH-AD10
AD10は前方の音像がかなりボケるが、この曲では定位が次のようになっているためあまり気にならない。
左に主役のヴァイオリン、右にチェロが定位し、ピアノの音像が左右前方に広く定位する。
ピアノは前方に定位するものの左右に広く広がっており、高音部が左、低音部が右に定位する。
その結果、正面前方に音源がほとんどないため、音像のボケがあまり気にならないのである。
ヴァイオリンの高音の伸びは素晴らしく、開放感のある音である。
とは言え、楽器の音像はやはりボケ気味である。

ATH-AD7
各楽器の定位はAD10と同じである。
AD10に比べると、ヴァイオリンの高音が鳴りきっておらず、ややかすれたような音になる。
AD10よりも解像度は低い。
その反面、音場はAD10よりも広くピアノの音像はAD10よりも明確に感じた。
音場の立体感はAD7に分があるように思えた。
実際、AD10よりもAD7の方が録音の風景が想像しやすかった。

ATH-AD700
AD10に及ばないもののAD7のかすれた高音はある程度改善されている。
解像度もAD7より高い。
音場はAD7より少しだけ狭いものの音像はAD7より明確。
音の立体感は3機種中最も良い。

A NEW DAY HAS COME(SuperAudioCD版) 
TRACK1 "I'M ALIVE"(3分30秒)
歌:CELINE DION
発売元:Epic Records Int'l
ジャンル:女性POPS(英語)

ATH-AD10
高域の伸びの良さと開放感の良さのため、ボーカルが華やかに聴こえる。
中高域の解像度も高い。
バックコーラスが聴こえるときの音場感も音に包まれるようで心地よい。
しかしながら、前方の音像がボケるためセリーヌの音像が大口に感じる。
前方の音場と左右の音場が分離しているため、ボーカルと背景音楽との一体感に欠ける。
この曲はキックが強いが、低音の解像度には不満がある。

ATH-AD7
AD10と違って、前方の音場と左右の音場が連続して繋がっているように感じる。
そのため、ボーカルと背景音楽の一体感を感じる。
常に音に包まれたような気持ちの良い音場を形成する。
全体的に解像度は低いが、低音の挙動はむしろAD10よりも把握しやすい。
高域は鳴りきっていない。

ATH-AD700
AD7よりやや音場は狭いもののAD7より解像度は高い。
音像と定位はAD10とAD7よりもしっかりとしている。
その結果、AD7のような「常に音に包まれたような音場」(ある意味誤魔化されたような音場)ではないものの立体感のある音場を形成する。
ボーカルはやや固く感じるが、その音像は比較的明瞭。
低音の切れもAD10やAD7に勝る。
高音の伸びと中高音の解像度は、AD10にかなわないが、AD7よりは改善されている。

Soul Provider
TRACK1 "Soul Provider"(4分28秒)
歌:MICHAEL BOLTON
発売元:CBS/SONY
ジャンル:男性POPS(英語)

ATH-AD10
この機種の中高音から高音にかける音の良さが男性ボーカルにも有効であるのは意外であった。
この曲はボーカルの主張が強いため、ボーカルと背景音楽の一体感はあまり必要がなく、
むしろAD10の音場が似合っているように感じた。
ボーカルの音像はややボケ気味だが、前方にボーカル以外の音があまり定位しないので、それほど気にならない。

ATH-AD7
この機種の前方と左右の音場が滑らかに繋がった一体感のある音場がボーカルを
背景に埋没させてしまうため、ボーカルを楽しむには物足りない。
解像度と高音にも不満がある。
しかしながら、AD7の広くて前方と左右に一体感のある音場は何を聴いても何となく乗せられてしまうところがあって面白い。

ATH-AD700
AD7よりも解像度・定位・音像の向上が感じられる。
やはり立体感のある音と言えるだろう。
しかしながら、この曲の場合はボーカルが主役であって、ボーカルをうまく聴けなければいけない。
AD700はボーカルと背景音楽の分離が明確であるが、高音の伸びにどうしても限界を感じるためボーカルにかえって物足りなさを感じた。
ボーカルを背景に埋没させてしまうAD7の方が誤魔化しではあるもののいいように聴こえるかもしれない。

月天心
TRACK2「もらい泣き」(4分40秒)
歌:一青窈
発売元:コロンビアミュージックエンタテインメント株式会社
ジャンル:女性POPS(日本語)

ATH-AD10
前の"Soul provider"以上にボーカルの主張が強い曲のためかAD10の作り出す音場に合うようだ。
ただし、背景音楽の個々の楽器の音像が前面で混ざってしまう。
その結果、音の立体感に欠ける。

ATH-AD7
この曲はAD7の「さ行のボーカルがかすれる」現象を再現しやすい。
また、「ち」「つ」でも声がかすれるようである。
集中して聴くとかなり気になる現象ではある。
しかしながら、AD7の音に包まれたような音場はこの曲でも良い効果を発揮している。

ATH-AD700
AD7と同様に「さ」行のボーカルがかすれる。
AD7よりはマシに思えるが、ドライバユニットの構造を変えないと根本的な対策はできないと思われる。
前の"Soul provider"と同様の理由でボーカルに物足りなさを感じる。

Nine Lives
TRACK1 "Nine Lives"(4分1秒)
歌・演奏:Aerosmith
発売元:SONY MUSIC
ジャンル:ROCK(英語)

ATH-AD10
この曲はロックらしく音の立体感を生かした演出が重要である。
しかし、AD10は音の立体感に乏しいため、この曲の魅力が最大限に出せていない。
AD10の高音の美しさはこの曲に合っている。

ATH-AD7
立体感はAD10よりは良いが、それほど良くもない。
高音の鳴り方はかなり物足りない。
AD7の音に包まれたような音場はこの曲でもある程度の誤魔化し効果を発揮している。

ATH-AD700
音像と定位は今回の比較機種の中で最も良いため、音の立体感が良いと期待していた。
しかし、実際には思ったほど立体感を感じなかった。
この曲に使われている楽器は高音系のものが多いため、高音の鳴り方がそれほどでもないこの機種ではいまいち立体感が出せないようである。
それでも各楽器の分離は比較機種の中では最も良い。

the soft tones of ACID JAZZ
TRACK4:"Everythings is going to the beat"(5分17秒)
演奏:ACE OF CLUBS
発売元:SCOTTI BROS. RECORDS
ジャンル:JAZZ(英語)

ATH-AD10
この曲はほとんどの楽器が左右に定位するため、AD10の欠点である前方に定位する音像がボケるという問題がある程度緩和される。
ただし、左右に定位している音像でも前方に近い音像はやはりボケる。
ボーカルの音像は前方に定位するためやはりボケる。
低音の解像度はあまり高くない。
高音が美しいためこの曲で常に流れているリズム打楽器が魅力的に聴こえる。

ATH-AD7
リズム打楽器の音がかなり貧弱に感じる。
AD7は高音の鳴りが弱いからであろう。
解像度不足のせいか全体的に平板な印象である。

ATH-AD700
AD7と同様に高音の鳴り方には物足りないものがある。
解像力・定位・音像がAD7より高いのでAD7より立体感があるもののかえって高音の鳴り方が物足りないような気がした。
音場の広いAD7の方が誤魔化しが効いているように感じた。

日本の秘境
TRACK3 小笠原諸島「宮の浜〜波〜」(8分)
発売元:株式会社デラ
ジャンル:環境ソフト(バイノーラル音源)

少々解説が必要と思われる。
このCDは音楽ソフトではない。
自然の音をバイノーラル録音したものが9トラック分収録されている。
録音された音は非常に綺麗である。
バイノーラル録音のためヘッドホン本来の音場と定位を発揮できるCDである。
今回使用した音は、小笠原諸島父島の砂浜で録音されたものとのことである。

ATH-AD10
音場と定位が安定し難い。
あえて言えば、砂浜にうつ伏せになって頭を上げて顔の近くで波の音を聴いている感じであろうか。
波が顔の目の前に来ているような感覚である。
高音の解像度が高いため、波の音は比較的明瞭に聴こえる。

ATH-AD7
波が奥から手前にやってくるように感じがいまいちしない。
前回のK271studioのレビューのとき、AD7の評価として「波打ち際に立って下を向いて波を見ているような感覚」
と表現したが、「少し離れて波を見ているような感覚」程度の方が正しいかもしれない。
音場と定位は比較的安定しているものの録音者の意図とはかなり異なる定位だろう。
解像度不足のため波の音はあまり鮮明には聴こえない。

ATH-AD700
AD10と同様に波が顔の目の前に来ているような感覚。
定位はAD10よりも安定している。
波の泡がシューという音を立てて消えていく音はAD7よりは鮮明に聴こえる。

比較試聴総評

今回、オーディオテクニカの歴代の開放型を試聴したが、ATH-AD10の完成度の低さは残念であった。
中高音〜高音にかけての解像度と開放感は良いが、前方の定位が甘く音像がボケるため、音の立体感が低い。
そのためかどうかは良くわからないが、低音から中音にかけては解像度の高さがまるで感じられない。
定価3万5000円、実売価格が今(2003年11月10日現在)でも2万3000円〜2万8000円程度する機種とは思えない完成度である。
装着感や外観の良さを含めてもせいぜい1万8000円程度の価値しかないのではないだろうか。
低音の量については個人の好みが強く反映されるため評価が難しいが、開放型としては普通と言ったところか。
しかしながら、低音は下まで伸びず、価格の割に解像度も低い。

ATH-AD7は定位・音像・音場についてはATH-AD10よりも改善されている。
定位と音像についてはAD10が酷すぎるのであって、改善されて普通になったと言える。
音場は広くなり、前方の音場と左右の音場が滑らかに繋がった一体感のある音場は何を聴いても
乗せられてしまうところがあって面白い。
解像度と高音の伸びは物足りないが、この音場によって音の粗がある程度誤摩化されている面もある。
低音の量はAD10よりも少ないが、音像がマシになっているせいか低音の挙動はAD10よりも把握しやすい。

ATH-AD7の後継機ATH-AD700は、定位・音像・解像度についてはさらに進歩した機種である。
その結果、今回の比較機種の中では最も立体感のある音場を形成している。
音場はATH-AD7よりも狭いが、その原因はドライバの構造の問題あるいはケースの穴を塞いでいる薄いスポンジの膜による籠りかもしれない。
実際、音の抜けはATH-AD7よりもやや劣るような気がした。
音量のバランス(高音・中音・低音のバランス)は中域の出が少し弱かったAD7よりもフラットになったように思える。
低域に関してはAD7よりは音量が増加されているもののAD10よりは少ない。
高音のかすれについてもAD7からの改善がみられるが、完全な解決はしていない。
これは価格の限界かもしれないが、価格の近いK271studioとMDR-CD900STではみられない現象なので
もう少し頑張って欲しいところである。
総合的には比較三機種の中で最も好印象であった。

今回のATH-AD700の完成度はなかなかのものであり、将来販売されると予想されるATH-AD900とATH-AD1000も期待できそうです。

ATH-AD700は買いか?

ATH-AD700は、AD7よりも解像度・定位・音像が改良されており、AD7よりも少し狭くなった音場を除けば良くできていると思われます。
ATH-AD700の価格は、現時点(2003年11月10日現在)では微妙と言えます。
実売価格が13000円〜15000円ですが、音質面だけで考えればこの価格設定は微妙です。
外観と装着感の良さも考慮すれば、妥当な価格かもしれません。

下位機種のATH-AD7ですが、環境がチープな場合はこちらの方が良いかもしれません。
広い音場とあまり高くない解像度が音の粗を誤摩化してくれるからです。
価格も実売で1万円程度になっていることが多いようです。
しかしながら、在庫は近いうちになくなるでしょう。

ATH-AD7とATH-AD700のどちらを買えばいいのかという選択は価格差のある間は、悩ましい選択になりそうです。
とはいえ、どちらの音が良いかと言えばATH-AD700になるでしょう。

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