SAITAMA-HA2にミュート回路(ヘッドホン保護用)を追加する

SAITAMA-HA2は電源ON時に破裂音(ポップノイズ)を出力します。
ポップノイズの原因は電源が急速に立ち上がるためです。
これを解決するには、ミュート回路を追加するしかありません。
そこで、下図のようなミュート回路を追加することにしました。
この回路は電源ON時から約3秒でミュートを解除することによってポップノイズを防止するものです。

 
この回路図のリレーは電源OFF時の状態になっています。
このミュート回路に使われているリレーはOMRON G5V-2(ステイブル式)です。
このリレーはコイルに3.75V〜5Vの電圧をかけると動作します。
5V時の電流は100mAも必要ですので、電源の容量に配慮する必要があります。
しかし、SAITAMA-HA2のレギュレーターは9Vですので、このままでは駆動できません。
そのため、Q1のCE間が導通したときにR15によってリレーにかかる電圧が約5Vになるように設定されています。
R15の抵抗値は、コイル抵抗50ohmから計算されています。
コイルは交流回路ではインダクタンス(単位ヘンリー,H)として表現されますが、このような直流回路ではただの抵抗として扱えます。

この回路の動作原理ですが、R13によって制限された電流がC12に流れます。
C12は電荷が溜まるまで直流抵抗がほとんどないので、R14に電流はほとんど流れません。
R13とC12で時定数2.5Kohm×1000uF=2.5秒となりますので、約3秒程度でC12の充電が完了するでしょう。
C12に電荷が溜まると、C12の抵抗はほぼ無限になりますので、R13とR14の直列回路となります。
R13とR14によって分圧されてQ1のBの電圧は約5Vとなります(実際にはならない)。
Q1のBの電圧が上がるとともにQ1はスイッチングされてQ1のCE間が導通します。
Q1のEの電圧が3.75V以上になると、リレーが動作して音声出力が導通します。

しかし、この回路はかなり怪しい部分があります。
(1)Q1のBE間に流れる電流のことをきちんと配慮していない。そのため、実際にはQ1のBの電圧は5Vよりも低くなる。
(2)Q1のBE間電圧降下を考慮していない。実際にはBE間で0.6〜0.7Vの電圧降下が発生する。
(3)Q1のCE間電圧降下を考慮していない。

実際にリレーに加えれられる電圧は4V程度になります。
G5V-2の最低動作電圧が3.75Vですからあまり余裕のない設計になります。
トランジスタの特性によっては、この回路は動作しない可能性もあります。
場合によってはR14の値をもっと大きくする必要があるかもしれません。


SAITAMA-HA2に組み込んだミュート回路です。
しかし、思わぬ落とし穴がありました。
リレーが作動する時にポップノイズよりも凄い破裂音がするのです。
リレーの接点が接触するときのノイズです。
これは私がミュート回路の考えを根本的に間違えていたから です。
※実は間違えていた訳ではない。出力のオフセット電圧が大きいからリレーが作動したときに大きな音が出るのだろう。


これが正しいミュート回路です(電源OFF時の状態)。
出力を接地することによって、ミュートをかけるのです。
これだと、リレーが作動しても接点が開放されるだけなので接触ノイズが入りません。

(補足)このミュート回路はプリアンプのようなものでは正しいが、今回のようなパワーアンプでは使ってはいけない手段である。
    NJM2073に短絡保護用の抵抗が入っているからこそできるのではあるが、良い子は真似してはいけない。


修正後です。見た目もスッキリしました。
電源ONしてから2、3秒待つ必要がありますが、電源ON時のポップノイズは撲滅されました。

しかし、また落とし穴が・・・
電源OFF時に小さなポップノイズのような「プツッ」という音が出力されます。
おそらく電源OFF時にリレーが接触するときの音でしょうか?(あるいは接触することによって回路が何らかの動作をするのか?)
本当のポップノイズに比べると格段に小さな音なのですが、あまり気持ちのいい音ではありません。
ヘッドホンを傷めることはないと思いますが、ちょっと残念です。
※おそらくオフセット電圧による音と思われる。


ミュート回路以外の変更も行いました。
ATH-HA2にならって電源にハイパスフィルターを入れました。
効果はたいしてありませんでしたが、わずかにノイズが低減されたような気がします。


出力にアッテネーターを追加しました。
出力に直列に100ohmの抵抗を入れ、負荷に対して並列に39ohmの抵抗を入れています。
これによって、出力が開放されている状態で計算すると、39/(39+100)=28.1%となります。
(実際には接続する負荷も影響するので、この計算は目安です)

効果は絶大でAT-HA2よりも残留ノイズが減りました。
それでも低インピーダンスのヘッドホンではノイズが明確に聴こえます。


今回の修正を反映した回路図です。
お手軽にアンプが作れるはずのNJM2073を使っているにもかかわらず、ある程度複雑になってしまいました。




最終的な回路の写真です。試行錯誤した跡がところどころに残っています。



SAITAMA-HA2とAT-HA2のスルー機能を使って、三台のヘッドホンアンプを一つのCDプレーヤーに接続してみるといういたずらをしてみまし た。
SAITAMA-HA2→AT-HA2→HD51と繋がっています。

試聴にはCDプレーヤーSA-17S1を使用しました。
SA-17S1の出力が大きいせいかアッテネーターを入れたSAITAMA-HA2でも少しボリュームを回すだけで大きな音が出ます。
AT-HA2でも同様でした。
高級CDプレーヤーにこのような廉価なヘッドホンアンプを接続することは通常ない(意味もない)ので、特に問題にはならないでしょう。

試聴にはATH-A100Ti(38ohm) , ATH-PRO5(40ohm) , HPS3000(60ohm) , ER-4S(100ohm) , HD580(300ohm)を使用しました(括弧内はインピーダンス値)。
インピーダンスの低いATH-A100TiとATH-PRO5では、改造後のSAITAMA-HA2でも明らかに残留ノイズが聴こえました。
ところが、HPS3000だとわずかに聴こえるかどうか程度に改善されます。
インピーダンスの高いER-4SとHD580ではほとんど聴こえませんでした。
インピーダンスの高い機種ではそこそこ使えるようになったようです。
ただし、SAITAMA-HA2の音質はたいしたものではないので、出力の弱いプレーヤーに接続して使うのに適しているかもしれません。

これで三回に渡ったSAITAMA-HA2の記事は終了します。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。

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