オーディオアナライザHP8903Bによる特性の測定
初掲載2004年2月22日

SAITAMA-HA7(OPA2604搭載)のいくつかの特性をオーディオアナライザHP8903Bで測定してみました。
HP8903Bは実際のオーディオ製品の開発にも使用されるもので正確な測定が可能です。
比較の対象として、BEHRINGER社のHA4700(実売価格13000円程度)の特性も測定してみました。
測定は時間の都合で左チャンネルだけにしています。
  1. 雑音+歪率
  2. S/N
  3. 周波数特性
  4. 感想
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測定 風景

写真右上の赤く発光する表示装置を持った測定器がHP8903Bです。
ミリバル(写真中央の青い箱)とオシロスコープ(写真左手前)も併用しました。
ミリバルは必須ではないのですが、HP8903Bの表示を切り替えずに出力レベルを監視できます。


オシロスコープは発振や歪みを監視するために使いました。
発振や大きな歪みが発生したときに無駄な測定をしなくて済みます。


SAITAMA-HA7は無負荷時に発振するときがあります。
測定中はステレオの片方のチャンネルのみ負荷が接続されますので、測定しないチャンネルに写真のような抵抗を接続しておきます。

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雑音+歪率(無負荷時)

HP8903Bは以下の計算式で歪率を求めます。

歪率=(測定帯域中の歪み+測定帯域中の雑音)/(測定帯域中の歪み+測定帯域中の雑音+信号)

雑音が計算に入っている理由は、雑音と歪みの違いをアナログ回路で判別するのは困難だからです。
そのため、「歪率」というのは不正確なので「雑音+歪率」と記述します。
HP8903BはLPF=30KHzと設定しているので、歪みと雑音の対象は20Hz〜30KHzとなります(HP8903Bは20Hz未満の測定ができ ない)。
このように帯域を制限するのは、歪み率に雑音を含んでいるからです。
仮に帯域が無限にあるとすれば、雑音も無限になってしまいます。
そうなると、歪みの測定ではなくなってしまいますので、帯域を制限して雑音を制限する必要があります。

(注)DSPを用いて歪みを測定する計測器ならば雑音をほとんど排除することができます。
   HP8903Bはアナログ回路で測定しているため雑音を含めて 計算してしまいます。




大きなグラフが二つ並んでいて見辛いとは思いますが、SAITAMA-HA7とHA4700の雑音+歪率です。
面倒かと思われますが、左右を広げて見て下さい。

SAITAMA-HA7は各周波数の測定値がほとんど一緒になっていて綺麗です。
出力レベルが4[Vrms]=11.3[Vp-p]を越えたところで、歪み率が急激に悪化します。
どのようなアンプでも出力の限界に近づくと、このように歪み率が悪化するものなのです。
およそ3〜4[Vrms]で雑音+歪率は約0.005%になりますので、かなりの性能でしょう。
しかし、3〜4[Vrms]のような高出力を長時間連続して出力することは実際のところありえません。
ヘッドホンは1[mW]程度の出力でかなり大きな音が出るからです。
例えば、32ohmのヘッドホンの場合、0.179[Vrms]で1mWの電力が供給できます。
同様に60ohmならば0.245[Vrms]、120ohmなら0.346[Vrms]、300ohmなら0.548[Vrms]、600ohmなら 0.775[Vrms]となります。
大音量で音楽を聴くときはもっと電力が必要ですが、小音量ならば1[Vrms]=2.83[Vp-p]程度の出力で十分と言えるでしょう。
つまり、1[Vrms]以下の特性がヘッドホンでは重要です。
ということは、実際の使用時に期待できる歪率はグラフから0.015%〜0.15%程度となるのでしょうか?
実はそうとは言えないのです。
出力レベルが低いときは雑音+歪率の雑音項が歪項よりも大きくなるので、歪率とは言えないのです。
出力レベルが高いときは雑音+歪率の雑音項が歪項よりも小さくなるので、このときの雑音+歪率は純粋な歪率に近くなります。
そのため、ピーク性能である0.005%をアンプの実力とするべきなのです。

BEHRINGER HA4700の場合、20〜1KHzまでの特性は綺麗に揃っています。
BEHRINGERのスペックによると、THD=0.006%@4dBu(1KHz,ゲイン1)となっています(ゲイン1=0dBです)
確かに今回の測定でもグラフを見ても分かるように1KHz、4dBu(=3.1Vrms)で0.007%となっています。
1〜2.5[Vrms]では0.006%となっており、スペックは嘘ではありません。
しかしながら、10KHzと20KHzの特性はかなり乱れています。
特に10KHzの特性はかなりトリッキーな動きを見せています。
このように高音域の歪率はあまり良くないようです。
それでも出力レベルが低い場合は、SAITAMA-HA7をむしろ上回る数値を出しています。
この理由はS/Nが良いからでしょう。
HP8903Bの場合、歪率の計算に雑音を入れてしまうため、雑音の少ない方が良い値で出てしまうのです。
実際のところ雑音+歪率の値そのものよりも低周波と高周波がそろって再生できていないことの方が問題だと思われます。

SAITAMA-HA7はS/Nは特に良くはないので、全体的に数値が上がっていますが、グラフは綺麗です。
実際の特性はHA4700よりもSAITAMA-HA7の方が上だと思われます。

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S/N

アンプに入れる信号は1KHz固定として測定しています。


S/NはHA4700の方がSAITAMA-HA7よりも良いようです。
同一出力レベルで+10dBほどHA4700の方が良いようです。
BEHRINGERのスペックによると、>90dB@0dBuとなっています。
出力が0dBu=0.775[Vrms]で90dB以上のS/Nが出るということです。
グラフを見ると、0.775[Vrms]で85dB程度のS/Nが実現できていますので、ほぼスペック通りでしょう。
出力が2[Vrms]では90dBを越えています。

SAITAMA-HA7のS/NはHA4700に見劣りしますが、実際のところ聴感上の問題はあるでしょうか?
32ohmの低インピーダンスヘッドホンの場合、0.179[Vrms]で1mWの電力が供給できます。
このとき、グラフからSAITAMA-HA7のS/Nは最悪でも60dB程度は期待できます。
60dB=1000倍ですから、聴感上の問題はそれほどないと思われます。

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周波数特性



8903BのLPFを30KHzに設定して測定してしまいまし た。
10KHz以上のデータは無視して下さい。10KHz以下の データは正確です。

SAITAMA-HA7の周波数特性は非常に良く、100KHzに達してもわずかに下がっているだけです。
可聴範囲では完全にフラットと言えるでしょう。

HA4700の場合、100Hz付近がピークになっており、周波数が上がるにつれて出力レベルが下がって行きます。
特に10KHz以上の音圧の低下は激しく、聴感上でも問題 がありそうです。
HP8903BのLPF=30KHzで測定してしまったよう です。10KHz以上のデータに意味はありません。
10KHz以下のデータは正確ですので、それで判断して下さい。

※HA4700はデテントボリュームのため出力を1Vrmsちょうどにすることができません。

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感想

測定で音質を語るのはやはり難しいと感じました。
聴感上ではSAITAMA-HA7の音質はHA4700を遥かに越えますが、測定結果を見るとそれほどの差はないように感じます。

特に全高調波歪率はその定義自体があいまいな指標のため、簡単な測定で済ませると大きな誤解を生むことになります。
実際のところ、HA4700を途中まで測定していたときはHA4700の歪み率の良さに驚いたのですが、10KHz以上の高周波を入力して測定をするとそ うでもないことが分かりました。
その反面、SAITAMA-HA7はあまりS/Nが良くないため、出力が弱いときの全高調波歪率はそれほど良い数値にはならないのですが、低周波から高周 波まで特性にずれがない正確な再生ができることが分かりました。

S/Nについては、数値だけを見るとHA4700がSAITAMA-HA7を完全に上回っています。
しかしながら、どちらのS/Nも聴感上ノイズが気になるレベルではないため、音質にそれほどの影響を及ぼさないと思われます。

HA4700のふたを開けたところです。
トロイダルトランス、プリント基板そして差動入力(XLR端子)によってS/N的に有利と考えられます。

周波数特性では、HA4700はかなり問題がありました。
聴感上でも問題があるような出力レベルの変動をします。
高級オペアンプOPA2604を搭載したSITAMA- HA7はこの点で圧倒的に有利でした。
測定のミスで10KHzまでの周波数特性でしか比較できないことが分かりま した。
それでもSAITAMA-HA7の方が明らかに良い周波数特性と言えます。

これらの測定では見えて来ないところもあります。
SAITAMA-HA7は100mAまで流せるバッファ回路を搭載していますが、HA4700はオペアンプの出力をそのまま使っています。

HA4700の出力の一部です。
黒いICが三つ並んで配置されています。これがNJM4580です。
(推測。三つのうち一つが差動入力用のオペアンプで、二つの出力用のNJM4580がそれぞれのヘッドホン端子を駆動する?)
このようにバッファ回路のようなものはICでも見当たりません。
つまり、電流を流す能力はかなり低いと言えます。
NJM4580は最大50mA程度の電流を流せますが、実際にはもっと少ないと思った方が良いでしょう。
低インピーダンスヘッドホンで大音量を出したとき、電流不足に陥る可能性もなくはないでしょう。

みなさんはここまで読んで気がつかれたでしょうか?
全高調波歪率とS/Nは出力レベルが高い方が特性が良くなるのです。
つまりは、高い出力レベルを要求する高インピーダンスヘッドホンの方が音質的にどうしても有利なのです。
SENNHEISER社のヘッドホンHD580が安くて音がいいのはこのような理由からでしょう。
インピーダンスが高いだけで自動的に色々な問題を解決できるのですから、低インピーダンスヘッドホンはどうしても音質面で不利です。
それでも最近ではオーディオテクニカが低インピーダンスでかなり音の良いものを開発しており、技術の進歩に驚くとともに低インピーダンスで音質を追求する のは難しいだろうと感じました。

結論として、SAITAMA-HA7は十分に良い音を出すということです。
次回作があれば、S/Nの低減も考慮してみたいと思いました。

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